【週俳9月の俳句を読む】
穏やかな日々
小林苑を
特別なことはなにも起こらない。いつものように過ぎていく毎日。作者の実生活ではなく、俳句に流れる時間の話だ。それは俳句というひとりきりの場所のことでもある。
消印は昨日の銀座きりぎりす 森山いほこ
蚊の落ちる田圃のやうな机かな 同
昨日、出かけた銀座がもう遠い場所になって、日常に戻っている。蚊が落ちたことで机を田圃ようだと思う。きりぎりすや別れ蚊に込められた小さな感慨のようなもの。それはすぐに去ってしまう。こんな風に日々は過ぎていくのだ。
太刀魚を捌き明日から宇宙戦争 中山宙虫
また村が森にのまれる秋夕焼け 同
SFを読むという日常からのトリップ。穏やかな日常という約束にも綻びがあって、冒険や摩訶不思議への入口がある。太刀魚の鋼色にも、赤銅の夕焼けにも。ちょっと綻んでいるくらいが丁度いい。
旅程やや省略されし赤とんぼ 岡田由季
鶏小屋に葛の重みのかかりをり 同
交番の奥へドアノブ蚯蚓鳴く 同
旅の計画を変えて一部スルーする。よくあることだ。省略された日程と赤とんぼの軽さ。葛の重さ。ふと気づいたドアノブの向こう側。「あっ」という気づきの喜びのようなもの。こんな積み重ねを幸せというのだろう。
第388号2014年9月28日
■中山宙虫 時間旅行記 10句 ≫読む
■岡田由季 多国籍料理 10句 ≫読む
第387号 2014年9月21日
■森山いほこ 昨日の銀座 10句 ≫読む
2014-10-19
【週俳9月の俳句を読む】 穏やかな日々 小林苑を
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