2014-11-16

【週俳10月の俳句を読む】天秤、揺れる 大塚凱

【週俳10月の俳句を読む】
天秤、揺れる

大塚 凱


前号において、佐山哲郎「こころ。から。くはへた。秋。の。茄子である。」(第391号)から以下の句を引用した

啄木鳥、の。自傷行為。を。疑はず。

前号の鑑賞ではこの独断性について触れたが、今回はこの文体について少々の考察を加えるものである。

そもそも「文体」が意味するところについては主に語彙や修辞が挙げられるだろう。10句の作品中、語彙については「副詞」「已然形」「自傷行為」「できちやつた婚」といった抽象名詞が散見されるが、その中では「自傷行為」が季語との取り合わせ、そして生み出される景の意外さという点で最も効果的だろう。個人的には、抽象名詞が実景に結びつかず概念にとどまっている句には共感しづらい(もちろん、異なる価値観が存在することも承知である)。修辞という点では、〈振っていま。野菊の。墓。へ。葬らん。〉〈あ、秋。海。雨。ワイパーの、変な音。〉といった一人称の視点が明確な句や、〈あんた、皺。それ干柿。の、やうな、それ。〉〈秋。遺影。イエイ。を。叫ぶ。だれですか。〉といった口語を用いた句が目立つ。しかし、なんといってもやはり、句読点を多用した修辞は作品全体に共通する表現手法として明らかである。句読点の多用によるリズムの変化により、「啄木鳥」の句は音韻の面でも啄木鳥が木をつつく様がオーバーラップされる点で効果を挙げていると評価したい。他にも、前掲の〈あ、秋。海。雨。ワイパーの、変な音。〉や〈あんた、皺。それ干柿。の、やうな、それ。〉のように口語を用いた句の場合にもこの表現が活きている。一方で、その表現の必要性を感じない句も存在するのではなかろうか。一句目を例にとろう。

星、色の。さかな。くはへて霧の、猫。

星色のさかな咥へて霧の猫

後者は「さかなくはへて」の読みやすさに配慮して漢字に改めた。前者の表現ではむしろ、後者に押し出される抒情性を損なってはいないか。加えて、句点と読点の交換可能性や挿入部分の恣意性についても考慮すべきである。

啄木鳥、の。自傷行為。を。疑はず。

句点と読点では読者の読むスピードが異なる。掲句では中七以降に句点が集中しているが、句読点を再検討することでその緩急をより活かせるのではないかと提案したい。

啄木鳥。の、自傷行、為を疑わ。ず、

どうせならこのくらい捩じれていた方が一句として面白いのではなかろうか。これは一句単位での例示だが、作品全体においても、句読点の多用がむしろ作品後半に進むにつれて読者に単調さや読みづらさを感じさせる結果に陥ってしまっているとしたら皮肉である。ここに、10句連作として俳句を捉えることの逆説が生じているのではないだろうか。

そもそも、連作としての意義は、通底する作者の文体からその人有り様、世界観がにじみ出すことであり、連作のテーマ性がその世界観への読者の没入を促すことであろう。とすると、テーマ性の統一という面では、作者が意図する句読点の多用を全句に適用することは合理的選択である。仮に句読点あるいは口語すらも全く用いない俳句のなかに突如として「啄木鳥」の句が現れたならば、その時点で連作としての評価は厳しいものとなるはずだ。おそらく、その句自体の評価も芳しくはなくなるだろう。今回のように特徴ある文体で10句を構成すれば、その文体が作者-読者間の了解事項となり個性的文体として一定の評価を受け得るのである。一方で、テーマ性に拘るあまり、単調に陥る危険性もある。この連作に即するならば、「啄木鳥」の句はこの連作中に存在するがゆえに表現効果が単調化される危険性、また、一句一句に対してその文体の必要性が問題となる危険性を孕む(文体が「不必要性」によって否定されてよいか否かという問題はあるが)。つまり、連作を前提とする俳句が、連作であるがゆえに、連作としての魅力が乏しくなるというパラドックスが成り立ってしまう危険があるのである。私にとっては、特にこの文体を用いた「一句」としての一回性が作品の大きな魅力に感じられた。それだけに、それが10句存在することに面食らった節がある。一方で、この連作そのものを一単位として、その試みの一回性を評価する視点もあるだろう。一句一句の屹立と、作品全体の統一との均衡。そのバランスに対する試行錯誤もまた、連作における楽しみのひとつである。


第389号 2014年10月5日
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第390号 2014年10月12日

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第391号 2014年10月19日
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