【週俳2月の俳句・川柳を読む】
「叫び」よりも「声」は怖い
小池康生
絵襖の金ンこぼすかに鳥鳴いて
「絵襖の金ンこぼすかに」は、「鳥鳴いて」にかかってくる。
分かるようで分からなくて、魅力的だ。
鳥が鳴くことによって、絵襖の金がときどきこぼれてくるかのようにも思える。黄金溢れる絵襖なのだろうし、金をそそのかすような鳴き声なのだろう。
◆水草生ふ 『篠塚雅世』
福豆を打つや遠くへ近くへと
鬼は遠くに近くにいると。福は遠くにいるのか、近くにいるのかと。
雪洞の生絹のくすみ水草生ふ
生絹が灯りを取り囲む手燭。くすみとは汚れではなく、生絹越しの灯りのニュアンスと受け止める。それと水の変化の取り合わせは、生成される春の途上に妙に合う。
◆下楠絵里 『待ち人』
イヤホンの無音を聞きて雪の町
イヤホンを耳に嵌めてはいるが、プレイボタンの押されていない状態だろうか。雪の中、音を消しつつもイヤホンを耳にしている独特の「無音」の中にいるのだ。それは雪の中の無音と、オフ状態のイヤホンの無音の、二重の無音の中。あまりにも内面的な世界。そういう精神状態が表題を作るのだろうか。
秘密には秘密で返す室の花
「秘密には秘密で返す」はある種のパターンかもしれないが興味深く、季語でどうにでも広がるのだろうが、室の花では世界を広げてくれないのでは?
◆トオイダイスケ 『死なない』
花樒土に声ことごとく吸はれ
樒は棺の四隅に、墓地に。土葬の時代には獣除けに周囲に置かれたとも聞く。
そんな樒の花。樒のイメージからは遠い可憐な花が咲く。花樒で切れ、「土に声ことごとく吸はれ」。死のイメージと、声なき声。地に埋もれたままの声が怖い。「叫び」よりも「声」は怖い。
舌の裏熱し辛夷に俄雨
「舌の裏熱し」と「辛夷に俄雨」。説明などできぬが、この取り合わせは、こちらの心に残る。絵画的とも違う。印象と印象の取り合わせのような世界。手強い作者だなぁと思う。
野に遊ぶ着の身着の儘来し友と
作者の背景、句の背景を存じ上げないので、「着の身着の儘」で、被災者を連
想してしまう。野に遊ぶ二人の表情がくっきりと見える。色々な句を作れる人なのだなぁと。
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