2016-03-20

【週俳2月の俳句・川柳を読む】「叫び」よりも「声」は怖い  小池康生

【週俳2月の俳句・川柳を読む】
「叫び」よりも「声」は怖い

小池康生


◆中村 遥 『光る魚』   

絵襖の金ンこぼすかに鳥鳴いて

「絵襖の金ンこぼすかに」は、「鳥鳴いて」にかかってくる。
分かるようで分からなくて、魅力的だ。
鳥が鳴くことによって、絵襖の金がときどきこぼれてくるかのようにも思える。黄金溢れる絵襖なのだろうし、金をそそのかすような鳴き声なのだろう。


◆水草生ふ 『篠塚雅世』

福豆を打つや遠くへ近くへと

鬼は遠くに近くにいると。福は遠くにいるのか、近くにいるのかと。

雪洞の生絹のくすみ水草生ふ

生絹が灯りを取り囲む手燭。くすみとは汚れではなく、生絹越しの灯りのニュアンスと受け止める。それと水の変化の取り合わせは、生成される春の途上に妙に合う。


◆下楠絵里 『待ち人』

イヤホンの無音を聞きて雪の町

イヤホンを耳に嵌めてはいるが、プレイボタンの押されていない状態だろうか。雪の中、音を消しつつもイヤホンを耳にしている独特の「無音」の中にいるのだ。それは雪の中の無音と、オフ状態のイヤホンの無音の、二重の無音の中。あまりにも内面的な世界。そういう精神状態が表題を作るのだろうか。

秘密には秘密で返す室の花

「秘密には秘密で返す」はある種のパターンかもしれないが興味深く、季語でどうにでも広がるのだろうが、室の花では世界を広げてくれないのでは?


◆トオイダイスケ 『死なない』 

花樒土に声ことごとく吸はれ

樒は棺の四隅に、墓地に。土葬の時代には獣除けに周囲に置かれたとも聞く。
そんな樒の花。樒のイメージからは遠い可憐な花が咲く。花樒で切れ、「土に声ことごとく吸はれ」。死のイメージと、声なき声。地に埋もれたままの声が怖い。「叫び」よりも「声」は怖い。

舌の裏熱し辛夷に俄雨

「舌の裏熱し」と「辛夷に俄雨」。説明などできぬが、この取り合わせは、こちらの心に残る。絵画的とも違う。印象と印象の取り合わせのような世界。手強い作者だなぁと思う。

野に遊ぶ着の身着の儘来し友と

作者の背景、句の背景を存じ上げないので、「着の身着の儘」で、被災者を連   
想してしまう。野に遊ぶ二人の表情がくっきりと見える。色々な句を作れる人なのだなぁと。


第459号 2016年2月7日
中村 遥 光る魚 10句 ≫読む
川合大祐 檻=容器 10句 ≫読む
篠塚雅世 水草生ふ 10句 ≫読む
第461号 2016年2月21日
下楠絵里 待ち人 10句 ≫読む
第462号 2016年2月28日
トオイダイスケ 死なない 10句 ≫読む

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