【週俳10月11月の俳句を読む】
かはゆい
宮本佳世乃
身体より心が寒いので失敬 加藤静夫
先日、近所の川を散歩していたら、帽子を被った年配のサラリーマンが金網を超えて向うの林に渡ろうとしていました。
けれども見える範囲に道はなく、仕方がないので金網を越えるのを諦めた男は、とぼとぼ消えるように去っていったんです。
未だに彼がどこから現れたのか分からない。
「失敬」という言葉は日常ではあまり聞きません。
たぶん同世代でも、上の世代でもそういう言葉を用いる人と共にいないからでしょう。
「失敬」って、なんとなく紳士的でもあり、なんとなくレトロ感を呼び起こさせる。
この言葉の軽さがいいと思いました。
身なりのよい年配の男性が「失敬」と残して去る原因は「心が寒い」から。
気の置けない仲間と一杯やり、少し心が寒くなったとか、失恋とか、もしくは金網を越えられなかったから、とか。
この十七音をそばで聞いたら、かはゆいなぁなどと思ってしまいそうです(失敬)。
塔といふ涼しきものや原爆以後 樫本由貴
木の実降る限りこの川原爆以後 同
S・ベケットに「ゴドーを待ちながら」という戯曲があります。
男二人が「ゴドー」を待っている。ゴドーとは何なのか、本当に来るのか、誰も知らない。ただ、待っている。そこに少年が登場してゴドーさんは来られないと告げる。
二人は、じゃあ行くか、ああ行こうといいながら、動かない。
そして幕。
連作を読んで、「ゴドーを待ちながら」を思い出しました。
2016-12-25
【週俳10月11月の俳句を読む】かはゆい 宮本佳世乃
第497号 学生特集号
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