【週俳8月の俳句を読む】
暗がりのわくわく
小久保佳世子
牛乳に苺潰せり旭日旗 堀田季何
旭日旗にどきっとしてしまったのは何故でしょう。見立ての旭日旗に違いなく、意外ながらも景はよく分かります。それでも同じような見立ての日の丸弁当の長閑さをこの句には感じられませんでした。軍旗であった為つい過剰反応してしまう旭日旗ですが、鮮明な苺の赤が牛乳に放射状に広がる色彩の楽しさ、美しさを味わえばいいのかもしれません。
頚椎カラー解きて噴水見上げをり 佐藤友望
この句の眼目は「解きて」。思わず自ら解いたのではないでしょうか。頚椎カラーをしていたということは何らかの理由で首を保護しなくてはならず頸の自由が奪われていた日々が思われます。見上げるためには首を伸ばさなくてはならず、噴き上げる水の勢いがその行為を促したのでしょう。
背に名を書き合ふ遊び盆の月 中矢温
無防備な背中。そんな背中があって思わず「ばか」とか書いてみたくなったこと誰にでもありそうです。この句は書かれた人が背中の言葉(名)を当てる遊びということですが、言い当てるのは結構難しいと思います。思えば背中は、自ら見ることの出来ない他人の空間のような遠さがあります。盆の月がその遠さを象徴しているようでもあります。
鰯雲映画館から広がつて 衛藤夏子
ミニシアターの会員になっていて月に一度は映画館に足を運んでいたけれど、この半年以上映画館に行っていません。映画館の暗がりにあるワクワク感、それを掲句から思い出しました。映画館を中心に鰯雲が広がってゆく光景には、コロナ禍で大きなダメージを負った映画館の再生がイメージ出来ます。
新涼の美貌の石に出会ひけり 柏柳明子
石の風貌は確かにあって、多くはごつくて荒々しい印象です。なので美貌の石はどんな石かしらと興味が湧きます。思えば美貌の基準は時代や個々人の好みに因るので美貌の石は作者だけの一期一会の特別なものかもしれません。新涼は出会いの嬉しさにぴったりの季語だと思います。
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