2021-06-20

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】ナイジェル・スタンフォード「Automatica」

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
ナイジェル・スタンフォード「Automatica」


天気●先月、ウィンターガテンの自動演奏機械みたいなのを取り上げたのですが、今回はロボットアームによる演奏です。


天気●ロボットが人の手に代わって、従来の楽器を演奏する、という、ちょっと風変わりで、サイバーパンクっぽくもある。

憲武●産業用ロボットの無骨な手が、際立ってますね。

天気●ポップ音楽の演奏史における電気とかって、まず、音の増幅、エレキギターとかですね、から始まって、この時点では、アナログの範疇。それから電子化が進む。テクノが典型的で、ドラムの打ち込み(プログラミング)やらシンセサイザーやら。いずれにしても、楽器部分で、従来のいわゆるナマ楽器に、電気的・電子的な改造・改良・発明が加えられていった。

憲武●表現方法の追求の結果ということなんでしょうか。それとも単になんか面白いことやってみたいという欲求。

天気●両方でしょうね、きっと。一方、このナイジェル・スタンフォードは、《人間》の部分を機械に取って替える。演奏という身体的な側面を機械に代替させる。これはちょっと面白い発想です。

憲武●うん、逆の発想ですね。

天気●ジャンル的にはファンクで、ビート感もたっぷり。いわゆる「ノリ」のある演奏で、機械というイメージからはちょっと遠い。この点も興味深いところです。

憲武●なんか音色(おんしょく)が、特にピアノなんですけど、妙に物哀しくて美しい。

天気●ところで、「機械のように正確な演奏」には、ノリが生じないということがよく口にされるんです。実際、正確=素晴らしいノリ、というわけではなくて、以前、ダニー・ハザウェーの名盤ライブの1曲のテンポをメトロノームと首っ引きで確かめたことがあるんですが、途中、思った以上に速くなってました。それが盛り上がりということなんだろうけど。つまり、正確にリズムを刻めばいいってもんじゃない。でもね、「正確じゃない」からノリが出るというもんでもない。ざっくり言うと、リズムって身体的なものです。

憲武●うーん、そのへんがよくわからないんですが、リズムがグルーブを生むのか、グルーブとは演奏者が既に持っているものなのか、とか。

天気●このロボットアーム演奏のリズムの正確・不正確については調べていませんが、ともかく、少なくとも、この音からはリズムの「身体性」を感じる。不思議な感じです。

憲武●それは賛成です。意義なし。

天気●まあ、視覚込みという効果も大きのかもしれません。ビデオの最後は、人間技では不可能な力量・破壊力を発揮しますが、このあたりはビジュアル上のサービス。見入ってしまう、聞き入ってしまう演奏でした。


(最終回まで、あと802夜)

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