【週俳4月の俳句を読む】
触覚と脈拍
藤田俊
連作として感じたことを述べてみたい。
■上顎にまんぢゆう 姫子松一樹
触覚の表現が目についた。
卒業や粉いつぱいのチョーク受け
上顎にまんぢゆうの皮朧月
これらの作中人物自身の肌や粘膜での体感はもちろんのこと、
田の水の泡の纏はる春の鮒
しばらくを地にくつついて石鹸玉
春ショール鉄棒に掛け逆上がり
これらの句では、視点人物のミラーニューロンの活動により、春の鮒や石鹸玉、春ショールが得た泡や地面、鉄棒の感触をとらえていると思わされる。触覚を表現するのに旧仮名は非常に効果的だ。
触れることへの抑制が働く時節柄、触覚を表現することの可能性に改めて気づかせてくれる。
■吐き気 横井来季
タイトルと呼応するような字余りのリズムが魅力だと思った。
母校燃やす煙よ凧と軋みつつ
眠りかたを毎夜忘れてしまふよ菫
付箋剥がれかけゐる陽炎の出口
小銭入れて自販機光る春の泥
アイマスク越しに障子の蝶がうごく
他の句における端正な詠みぶりとは対照的な定型という詩型の身体性を逸脱する作者の身体性(脈拍)。省略できそうな助詞であってもこだわっているような言葉の選び方。時間経過を感じさせる措辞も相まって、そこに漂うかすかな主張にしばらく立ち止まる。
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