【週俳7月9月10月の俳句を読む】
秋のいきもの
八上桐子
配線をこぼして秋の兜虫 恩田富太
兜虫を贈られたことがある。たしか中学生だった。困惑しつつも世話をするうちに情も移った。ところがある日行方不明となり、日を置いて机の裏で見つかった。配線奥の兜虫も埃まみれのはずだが、黒々と生死不明に感じさせる。なめらかでやわらかな中七が、ソフトフォーカスをかけている。
秋の蟬フィルターを乾かしてゐる 上田信治
夏の終わりを宣言するように、エアコンフィルターを洗う。蝉の声もすっかり止んだと思っていたのに、出遅れたのか長寿なのかまだがんばっているのがいる。セミの翅と濡れたフィルター。ふたつの網から、うるおいが失われゆく。この夏がなつかしさを帯びはじめている。
人は自分を奏でて秋のコップかな 上田信治
口笛や、歌だろうか。ダンスかもしれないし、ただ喋っているだけかも。身体ではなく自分としたことで、音がより気分として伝わってくる。奏でるの措辞で音感のよさを感じさせながら、秋のコップの佇まいにすっと音が絞られる。はしゃぎすぎていない分、耳を澄ましてしまう。
秋の蜂霊園区画抽選日 本多遊子
墓地の購入は終活の一つ。死について、死後について考えてのこと。画数多めの角ばった字の並びは、いかにも墓地、墓石らしく重々しい。それでいて抽選のわくわく感も感じさせるのが、秋の蜂。さいごまで攻撃性を失わない黒と黄が印象づける、強さ、明るさ。おそらくまだ余裕のある終活なのだろう。
ゆるキャラが当然もつべき悪意 湊圭伍
そういえば、愛嬌を振りまいていたゆるキャラたちはどうしているのだろう。今さら、かわいいだけでは生きながらえないというのも酷なこと。ましてや、悪意。進化するか、キャラ崩壊するか、命運を賭けた選択が迫れている。「ヒャッハー、人間様だけは目指したくないなっしーー」。
第752号 2021年9月19日 ■上田信治 犬はけだもの 42句 ≫読む
第756号 2021年10月17日 ■恩田富太 コンセント 10句 ≫読む
第757号 2021年10月24日 ■本多遊子 ウエハース 10句 ≫読む
0 comments:
コメントを投稿