2022-01-16

後記+プロフィール769

後記1 ◆ 佐藤文香


今回文章を寄せてくださった大塚凱さん、渡戸舫さん、クズウジュンイチさん、高瀬みつるさんは、佐藤智子さんが参加している句会のメンバーです。山田航さんは『天の川銀河発電所』刊行後、佐藤智子さんについて「こんな作家がいるとは知らなかった」とおっしゃってくださったのが記憶に残っています。みなさん、ありがとうございました。

また、鑑賞文を寄せてくださった14人のみなさんにも大変感謝しています。メールが届くたびに嬉しかったです。
 
それぞれの方の気になるポイントの重複、それに対する読みの差異が面白く、たくさんの方に書いていただけたことは、非常によかったと思いました。

そして佐藤智子さんへ。この特集はいかがでしたでしょうか。
 
今後も何かしら書き続けてもらえると、私は嬉しいです。

それではみなさん、おいもでも食べながら、引き続き『ぜんぶ残して湖へ』をお楽しみください。読み終わった方は、一緒にお散歩しましょう。湖のあたりでお待ちしています。


後記2 ◆ 福田若之
 
表紙に佐藤文香責任編集とあるとおり、中身はすべて佐藤文香さんの企画でお届けしています。当番の僕は、bloggerに掲載するうえで外観を整えたくらいのものですが、せっかくなので、すこし。
 
正直に書くと、『ぜんぶ残して湖へ』は、一読して妙な感じがしました。なんだか、字数が足りないような、いや、数えてみると足りている。なんなら、字余りの句だってけっこうあるのに、数えないとなんだか字が足りないように錯覚してしまう。《花水木やたらさパン買って生きる》みたいな、中七下五にかけてするりと抜けるかたちの破調が多いからでしょうか。そればかりでもなさそうです。《あらかじめしけったもなか青嵐》みたいな定型にぴったり嵌っている句も、なんだか十五音くらいしかないように感じる。

あっというまに176句を読み終えて、けれどあまり身に受けとめることができた感じもなくて、どうも狐につままれたような気のしたまま、しばらくが過ぎてしまっていました。
 
で、このたび、いただいた稿をwebページに落としこみながら、ようやく気づいたのですが、どうも僕はこの句集を読むには言葉を速く走らせすぎてしまっていたようです。たとえば、《お茶を持って二階や春と春の雨》や《水鱧を食べてハートのハートのための》といった句の「春」や「ハートの」の繰りかえしは、ゆっくり読みくだしたときに、はじめて効いてくる感じがします。《新蕎麦や全部全部嘘じゃないよ南無》なんかは、詰めこんだ速さで読んでも胸に響くけれども、やはりゆっくり読んだほうが、「全部」の繰りかえしに重みが出る。
 
それが、ひょっとすると、この句集の一句目に《夜ごと春めいてリニアモーターカーの駅》という句が置かれている理由かもしれません。これは、二十字を十七字分の速さで読むという句ではなくて、本来の十七字分の幅の前に、さらに三字加えられているという句です。リニアモーターカーは速いか知れないけれど、この句は遅い。次のページの《夜の梅水辺のように腰かける》や《医薬品買って二月の辻に居る》を、この二十字と同じくらい遅く引き延ばす感覚で読むようにしたら、ようやく、僕なりに、この句集における五七五の感じようが摑めてきた気がしています。
 

それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。


no.769/2022-1-16 profile 
 
■佐藤智子 さとう・ともこ
1980年生まれ。2017年、『天の川銀河発電所』に入集。句集に『ぜんぶ残して湖へ』(左右社)。
 
■大塚凱 おおつか・がい
1995年千葉生まれ。「ねじまわし」を発行。イベントユニット「真空社」社員。第7回石田波郷新人賞、第2回円錐新鋭作品賞夢前賞。
 
■山田航 やまだ・わたる
歌人。1983年生まれ。北海道札幌市出身・在住。歌集に『さよならバグ・チルドレン』『水に沈む羊』。編著に『桜前線開架宣言』。
 
■高瀬みつる たかせ・みつる
1994年東京生まれ。現在大阪在住。俳句甲子園をきっかけに俳句をはじめ直近は小部屋句会などにて活動。
 
■渡戸舫 わたと・もやい
月に1回、小部屋句会(現在、ネット開催、佐藤智子さんもメンバー)に参加。
 
■クズウジュンイチ
1969年群馬生まれ。「奎」所属。NPO法人主宰。
 
■中矢温 なかや・のどか
平成十一年生れ。「楽園」と現代俳句協会所属。
 
■青木ともじ あおき・ともじ
1994年千葉県生まれ。東京在住。俳句甲子園13,14回出場。「群青」所属。
 
■瀬名杏香 せな・きょうか
1997年北海道生まれ。「椋」会員、石田郷子に師事。
 
■杉崎幸樹 すぎざき・こうき
1967年、秋田県生まれ。2021年、俳句を始めつつある。ガノタ(ガンダムヲタク)。ピーカー(ツインピークス愛好者)。会社員。理工図書月刊『土木技術』編集委員(2017〜)。

■中村我人 なかむら・がじん
年齢2分の1の佐藤文香さんによって俳句を学び始める。理屈・説明こってりの文章を仕事としているので、真逆の俳句では大苦戦中。
 
■古川朋子 ふるかわ・ともこ
1969年生まれ。「蒼海」会員。第六回星野立子新人賞。
 
■黒岩徳将 くろいわ・とくまさ
1990年神戸市生まれ。「いつき組」所属、「街」同人。
 
■加藤右馬 かとう・ゆうま
2015年頃より作句開始。『山河』誌所属。現代俳句協会会員。最近は中村苑子にぞっこんです。
 
■南極 なんきょく
好きな食べ物は、揚げ出し豆腐、チーズケーキ。
 
■南幸佑 みなみ・こうすけ
2004年生まれ。私立海城高校に在学中。
 
■稲垣和俊 いながき・かずとし
1993年生まれ。和歌山県出身。劇作家、俳優。去年、俳句にはまり、高浜虚子の句で号泣した。
 
■依光陽子 よりみつ・ようこ
「クンツァイト」。第44回角川俳句賞。
共著『俳コレ』他。
 
■原麻理子 はら・まりこ
1987年生まれ。「小部屋句会」「スパルタ句会」などに参加。第5回円錐新鋭作品賞白桃賞受賞。
 
■佐原キオ さわら・きお
1995年生まれ。歌人。第四回笹井宏之賞染野太朗賞受賞。

■佐藤文香 さとう・あやか
1985年生まれ。句集に『海藻標本』、『君に目があり見開かれ』、『菊は雪』。2022年9月までカリフォルニア州在住。

福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第1句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第2句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。共著に『俳コレ』(邑書林、2011年)。

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