2024-02-11

【小笠原鳥類✕中嶋憲武の音楽千夜一夜】 B.C.キャンプライト「I'm Ugly」

【小笠原鳥類✕中嶋憲武の音楽千夜一夜】
B.C.キャンプライト「I'm Ugly」


憲武●今回は小笠原鳥類さんをゲストにお招きしています。

鳥類●私が前回、週刊俳句の対談で話したのは、去年(2023年)の9月3日、854号でした。元気ではない、いいメロディーの最近のロック、ヴィレジャーズ「So Simpatico」について話して、そのあとも私が聴くのは、最近の、いいメロディーの、元気ではないロックです。

憲武●昨年はいいものを聴かせてもらいました。元気ではないんですが、なんだろう、メロディアスですし、色や温度も感じました。ベースラインがいいんですかね。ちょっと前向きになれるかな? っていう感じ。3分台という長さもよかったです。

鳥類●ちょっと前向き、いいですね。非常に前向きなのは、ムリがあります。ちょっと前向きな音楽が好きで、20年くらい前にトラヴィスを聴きはじめて、今も聴くのですが、いいメロディーで、あまり元気ではないバンドで、日本語のウィキペディア「トラヴィス(バンド)」に「英国を代表するバンド」であり「エモーショナルな内省路線」、だけど「当時の音楽界を湿っぽくした張本人であるという声も」あるそうです。〈エモい〉でもなくてエモーショナル、内省、湿っぽい、ブラームスの室内楽みたいで、いいですね。ジャンルの区別をしないで音楽を聴きたいです。音楽だけでもなくて、ジャンルの区別をやめていきたい。すべてはロック。

憲武●トラヴィスの湿っぽいところ、好みです。でも決して暗くはない。演奏されない音を隠し持っているような、なんかこう余白を感じました。「すべてはロック」というのは、ロックの発するエネルギー的な要素を秘めていたい、ということでしょうか?

鳥類●ビートルズを聴いていて、エネルギッシュ! ではなくて、ほんわか、楽しいなあ、と思うのです。ロックは60年代から、サイケに行ったり、暗くなりやすかったり、あまり元気ではなかった。ほんわかエモーショナル、内省。湿っぽいと言えるかどうか、最近聴いたもので、いいメロディーで、元気ではなくて、盛り上がらないような、と言っていいのかどうか、アメリカで生まれてイギリスを拠点にして活動しているB.C.キャンプライトの、去年のアルバム「The Last Rotation of Earth」が、いいです。1曲、ちょっとショッキングな題名にも思えますが「I'm Ugly」を選びます。

 

鳥類●歌詞もそうですが、深刻な音楽を、自分が何度も聴いて、そこで楽しんでしまっているとしたら、いいのかと思ってしまいますけれど、メロディー、歌声、サウンド、しっかり何かを、生きるために言おうとしている音楽だと思うのです。深刻ですが、でも、楽しさを失っていない。人間を追い詰めすぎない、ひろがるべき音楽だと思う。

憲武●この人、初めて聴きましたがいいですね。高橋幸宏のテイストもあると思いました。3分台という長さもいいです。楽しさを失わないって、大事なことだと思いますが。

鳥類●いろいろな音楽を聴き込んで、しっかり曲を作って、歌も演奏も練習している、うまい人の音楽が、楽しいのだと思うのです。ヘタにダラダラしていると、楽しくない。でも、ヘタなダラダラが悩みや苦しみを表現しているようにも聴こえることがあって、ダラダラ言葉を並べているだけの詩にもチャンスがあるのかなあ。楽しさを否定して、気持ちを厳しく追い詰めることが、真実であるということは否定しづらいですけど、それでは、つらいですので、私は、どこかに楽しさがあってほしいのです。詩も。トラヴィスも内省を、どこまでも追い詰めて、つらくなってはいなくて、そこで、盛り上がる元気ではないけれど、楽しく聴けるロックになっている。何をやっても楽しさを失わなかったビートルズという、ロックの基礎を忘れてはいけません。私がそうなんですが、元気になることが難しいとしても、どうしようもない落ち込みでもなくて、ちょうどいいところを動いていきたいです。こまどり姉妹さんの「涙のラーメン」を聴くこともあります。


(最終回まで、あと674夜)

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