【週俳3月の俳句を読む】
余談だが
宮本佳世乃
服薬は菓子食ふやうに春の風邪 浅川芳直
春の風邪だからか、失礼ながら深刻ではない様子。ラムネ菓子のようなくすり。そんなに苦くもなく。あれ、でもその次に
閏日を寝返り夢のなき朝寝 同
があるので、もしかして寝込んでいたのか。せっかくの閏日なのにお得な感じがなく、春を満喫しきれない朝寝なのである。
きさらぎの銀河の果てのパイプ椅子 宇佐美友海
さまざまなものが生まれるきさらぎの果ての果てに、変哲のないパイプ椅子がある。それが見えてしまう大人になってしまった。パイプ椅子への焦点の当て方は橋間石の〈銀河系のとある酒場のヒヤシンス〉のヒヤシンスと同じだけれど、本句のほうが、無機質な感じが強い。
新社員配属血沼海ぞひに 岩田奎
「血沼海」をちょっと調べたら「古事記・日本書紀ではナガスネヒコに反抗されて矢を受けた五瀬命がその傷を洗った場所」とあった。表意に引き摺られるきらいはあるが、もしかしてどんどん出血して循環血液量減少性ショックになったのでは、など想像してしまう。
10句の多くに「腐」「醜」などのワードが入っているため、この句も、ブラックな部署へ配属されたのではないかと疑ってしまう。血沼海を見ながら働く気分はどんなものだろう。ちょっと興味がある。
その部屋のひねもす灯る雪柳 若林哲哉
家が灯るのではなく、部屋が灯るということは、研究室か何かだろうか。それとも、アパートの人が電気をつけっぱなしで寝てしまったのか。雪柳が可憐だけれど、重力に従って枝垂れる花のせいか、どうしても、新年度になってちょっと疲れている人を思った。余談だが、私の家の近くの学校は朝から夜中まで灯っている。
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