四人を読んで 高梨 章
ガ ガンボ
ガ
ガン
母
軽くて
静かで
少しだけ揺れる
ががんぼには祖母の余命がわかるのか 千倉由穂
眠るやうな 穏やかな
最期
でしたよ、
ががんぼの隣を夜が過ぎてゆく クズウジュンイチ
*
なにか聞こえた?
聞こえなかつた
私には聞こえた
あなたにも聞こえた
ほらまた何か
雲ひとつふたつと育てつつ昼寝 田中惣一郎
*
ふたたび扉をたたく
誰もでてこない
手袋の片方外す鍵のため 藤田哲史
あるひは
鍵はあるが
ドアはない
*
わたし何か言つたかしら
いや、何も言つてゐないかもしれない
朧夜の話し相手がそつとゐる クズウジュンイチ
わすれられた 人だつた
*
彼はまだ
指を差してゐる、
風船がみるみる遠い融雪期 藤田哲史
規則正しく息をして
そして
空 だけとなる、
*
扇風機二台が首を振り、
ピンポン玉がこんこんこん
寂しさのかぎり首振る扇風機 千倉由穂
下を見て、
そして上を見、
(小声で)
*
波が舟にあたる軽い音、
舟のかすかに軋む音、
やはらかき辞典一冊さつき咲く 田中惣一郎
舟は下流の入り江で
軽く揺れ、そして
明るい
*
物を集め
そして ひとは死ぬ
端居して花布眺めたることも 千倉由穂
棚にある、
借りたままの
本
草鹿外吉訳
*
わたしたちが向かふのは、
場所ではない、
透明な時間即ち霜柱 藤田哲史
ただ広くて
静かで
ひかりの
飛沫が あがる
*
陽が
天の
まんなかにくる
空室へ風を呼び込む鯨かな クズウジュンイチ
わたしは
空のクモに
恋をした鯨を
知つてゐる
○
■コンソメ 藤田哲史 作品50句 ≫読む
■踏切 高梨章 作品50句 ≫読む
■卯月 田中惣一郎 作品50句 ≫読む
■生木 クズウジュンイチ 作品50句 ≫読む
■花布 千倉由穂 作品50句 ≫読む
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