【週俳10月の俳句を読む】
いい記憶
鴇田智哉
虫時雨この横顔で会いに行く なつはづき
この、と言っているから、割とくっきりと見えているのだろう。
自分が切り絵の中の人物になったかのような。
あるいは影絵劇の配役になったかのような。
会いに行く、ということを、物語めいて感じ始めているのか。
虫の声の響きの中にあって自分は、くっきりとして、進んでいく。
◆
明洞てふカラオケ喫茶ゑのこ草 市川綿帽子
遊廓の跡にたばこ屋小鳥来る 同
ここはどこで、いつなのか、という思いは、
秋の日がざらついた壁にはりついたようなときにも、
起こるのではないだろうか。昼の狗尾草がわびしい。
影を追いながら、別の場所にいる気になったり、
小鳥に気づいて、ふと我に返ったり。
◆
稲の穂の擦れあふ音のかすかなる 今井豊
稲は、その花もそうだが、どことなくかそけきものである。
黄金色まぶしく、大きくひろがっている稔りの田であるが、
その中にあって、ひっそりと擦れ合っている稲穂は、
あたたかく、懐かしい。
◆
蓑虫にひびいてきたるハーモニカ 中岡毅雄
蓑虫にある、かすれ感、は
ハーモニカの響きに通じるところがあるかもしれない。
ひびいてきたる、とは、頭の中で響いてきた、ということではないか。
銀色と、ひんやりとした手触りのなつかしさもまた、
蓑虫の重なったのではないだろうか。
◆
記憶とは松茸ほどに匂ふもの 馬場龍吉
松茸ほどに匂ふ、と言われても、どのくらいなのか、
よくわからないけれど。ともかく
いい感じで匂う、ということなのだろう。
この、記憶、はいいものでないといけない。
この、と言っているから、割とくっきりと見えているのだろう。
自分が切り絵の中の人物になったかのような。
あるいは影絵劇の配役になったかのような。
会いに行く、ということを、物語めいて感じ始めているのか。
虫の声の響きの中にあって自分は、くっきりとして、進んでいく。
◆
明洞てふカラオケ喫茶ゑのこ草 市川綿帽子
遊廓の跡にたばこ屋小鳥来る 同
ここはどこで、いつなのか、という思いは、
秋の日がざらついた壁にはりついたようなときにも、
起こるのではないだろうか。昼の狗尾草がわびしい。
影を追いながら、別の場所にいる気になったり、
小鳥に気づいて、ふと我に返ったり。
◆
稲の穂の擦れあふ音のかすかなる 今井豊
稲は、その花もそうだが、どことなくかそけきものである。
黄金色まぶしく、大きくひろがっている稔りの田であるが、
その中にあって、ひっそりと擦れ合っている稲穂は、
あたたかく、懐かしい。
◆
蓑虫にひびいてきたるハーモニカ 中岡毅雄
蓑虫にある、かすれ感、は
ハーモニカの響きに通じるところがあるかもしれない。
ひびいてきたる、とは、頭の中で響いてきた、ということではないか。
銀色と、ひんやりとした手触りのなつかしさもまた、
蓑虫の重なったのではないだろうか。
◆
記憶とは松茸ほどに匂ふもの 馬場龍吉
松茸ほどに匂ふ、と言われても、どのくらいなのか、
よくわからないけれど。ともかく
いい感じで匂う、ということなのだろう。
この、記憶、はいいものでないといけない。
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