【週俳1月・2月の俳句を読む】
ゆらゆらと
津川絵理子
電飾が樅とせりあふ役場の冬 青山ゆりえ
大阪市役所横の川沿いの道は、クリスマス近くになると鮮やかな電飾に彩られる。この句を読んでその風景を思い出した。華やかといえばそうなのだが、電飾の光はどこか毒々しい。ひたすら自己主張するかのような電飾と、点滅のたびに闇から浮かび上がる樅の木のコントラスト。「せりあふ」という表現が面白い。鬱蒼と茂る樅も恐ろしい感じがする。
役場での人間の葛藤を、電飾と樅に喩えているのかもしれない。まさに冬の光景。
蛇口より漏るる光やラガー黙 小西瞬夏
意外なアングルからラグビーを詠んだ。グランドの近くには水飲み場があって、その蛇口から水滴が今にも落ちそうに膨らんでいる。水滴がきらりと光ったのを、光が漏れているように感じたのだ。全体的に冬の荒涼とした雰囲気があるが、蛇口から漏れる光が救いのように感じられる。練習の合間に休憩しているのだろうか、選手の若い横顔。「黙」までは言い過ぎと思うけれど、蛇口の光と選手の若さが響き合う異色の句。
浅春の風に揺らめかない鼻毛 五十嵐筝曲
早春のまだ冷たい風が、息を吸うたびに鼻の奥まで沁みとおる。普段ちょっと鼻から飛び出したときくらいしか意識されない鼻毛だが、冷たい風や塵や埃から身体を守ってくれている大切なもの。その鼻毛の存在感がユーモアたっぷりに伝わってくる。だいたい鼻毛は硬いし、揺れるほどの長さはない。しかし改めて「揺らめかない」と言われると、反対に揺らめく鼻毛をどうしても想像してしまう。昆布のようにゆらゆらと動く鼻毛があるかもしれない、などと考えるとかなり不気味である。
2019-03-17
【週俳1月・2月の俳句を読む】ゆらゆらと 津川絵理子
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