【週俳1月〜2月の俳句を読む】
明暗
藤田俊
◆叡電 山口遼也
動作に宿る快楽を捉えたような連作にあって、その特徴からは外れた次の句に特に惹かれた。
凍鶴の見える公衆電話かな 山口遼也
景そのものに新鮮な魅力を感じる。勝手ながら夜の電話ボックスの景と読んだ。読み手にとって魅力的な状況を設定させる不思議な力がある。凍鶴と電話ボックスの他は真っ暗で、鶴の白と電話の黄緑の鮮やかな対比が浮かんでくる。視点人物に与えられた特典のような体験が、あまり使われなくなった公衆電話という装置と「公衆」という対義的な言葉によって強調されている。
◆おのづと 山岸由佳
二物衝撃というより二物共鳴という印象を与える連作の中で、次の句に特に惹かれた。
岸暗くなり水鳥の一羽づつ 山岸由佳
岸が暗くなるまでの時間と、暗くなってから水鳥が順番に動く時間と、一句の中でのゆったりとした時間経過にうっとりとする。その時間と呼応するように水鳥が起こすであろう波紋も見えてくる。
◆声と暴力 佐々木紺
英訳した時の表記と響きが意味とは裏腹に魅力的なタイトル。一瞬というより時間の流れを描いたような各句の内容も相まって、ネガティブな言説が流れるSNSのタイムラインを連想した。それに触れることによる疲弊と、身体感覚を伴う別の体系の言葉にすることで昇華しようとする意志を感じる、ハイコンテクストで挑戦的な連作から次の句に特に注目した。
雪晴れて棘よく刺さるからだの端(は) 佐々木紺
逃げてきてまたあやとりの果ての川 同
押し花のさいごの呼吸しぐれゆく 同
◆青空 藤井万里
景とはつまるところ「光景」なのだと思わせる連作の中で、次の句に特に惹かれた。
春水やゆすつて閉ぢる釘の箱 藤井万里
釘の放つ光や箱を閉じる時のいい意味で粗雑で軽快な音が聞こえてくる。斡旋された季語の光や音も心地よく響き合っている。
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