【週俳1月~2月の俳句を読む】
言葉の世界
衛藤夏子
俳句は17音の小さな作品なので、ひとつの言葉の表記で、口語、文語、古語、ひらがななどの選択で、作品から受ける世界が広がります。
初鴉ゆく叡電とすぢかひに 山口遼也
「叡電」は、叡山電鉄のことで、出町柳駅から比叡山や鞍馬寺に向かって走る電車です。
初鴉は新年の季語で、元旦の早暁に鳴く鴉。「すぢかふ」は斜めに交差するという古語。
叡電を舞台にした三木孝浩監督「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」という映画はファンタジー作品ですが、山へと走る叡電は、私にとって、どことなくパラレルワールド感がただよいます。だから、叡電に交差した初鴉は、少し神格化した景も見せてくれました。
髪はねてゐるよ春の鳥来てゐるよ 山岸由佳
口語でいるよ、でなく、文語でゐるよとすると、レトロな感じがします。童謡のような可愛らしいフレーズ。ゐるよ、の表記により、ノスタルジーな昭和初期の雑誌の挿絵、中原淳一や竹久夢二の描く少女と鳥を思い浮かべ、時空が広がりました。
押し花のさいごの呼吸しぐれゆく 佐々木紺
中七のさいごの呼吸で切って読みました。押し花をつくるために、生花を死なせる作業中、外は時雨てきている。しぐれゆく、とひらがなの文語表記は、外の雨だけでなく、押し花さえもしぐれるように死んでいく、花の息遣いのような感じがしました。
江戸川乱歩のミステリーを読んでいるような妖艶さとぞくぞく感。しぐれゆくの表記により余韻残りました。
よく笑ふひとや春田をたもとほり 藤井万里
笑う、より笑ふの方が、ふふふと続く笑いを想像します。「たもとほる」は行ったり来たりするの古語。ひとや、で切れていることから、笑顔たやさぬ人が、春を迎える田んぼを行ったり来たりしている。植物の成長を待っているのでしょうか。そわそわした期待感を孕んだ、春の温かな景が浮かんできました。
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