2023-03-19

衛藤夏子【週俳1月~2月の俳句を読む】言葉の世界

【週俳1月~2月の俳句を読む】
言葉の世界

衛藤夏子


俳句は17音の小さな作品なので、ひとつの言葉の表記で、口語、文語、古語、ひらがななどの選択で、作品から受ける世界が広がります。


初鴉ゆく叡電とすぢかひに  山口遼也

「叡電」は、叡山電鉄のことで、出町柳駅から比叡山や鞍馬寺に向かって走る電車です。
初鴉は新年の季語で、元旦の早暁に鳴く鴉。「すぢかふ」は斜めに交差するという古語。

叡電を舞台にした三木孝浩監督「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」という映画はファンタジー作品ですが、山へと走る叡電は、私にとって、どことなくパラレルワールド感がただよいます。だから、叡電に交差した初鴉は、少し神格化した景も見せてくれました。


髪はねてゐるよ春の鳥来てゐるよ  山岸由佳

口語でいるよ、でなく、文語でゐるよとすると、レトロな感じがします。童謡のような可愛らしいフレーズ。ゐるよ、の表記により、ノスタルジーな昭和初期の雑誌の挿絵、中原淳一や竹久夢二の描く少女と鳥を思い浮かべ、時空が広がりました。


押し花のさいごの呼吸しぐれゆく  佐々木紺

中七のさいごの呼吸で切って読みました。押し花をつくるために、生花を死なせる作業中、外は時雨てきている。しぐれゆく、とひらがなの文語表記は、外の雨だけでなく、押し花さえもしぐれるように死んでいく、花の息遣いのような感じがしました。

江戸川乱歩のミステリーを読んでいるような妖艶さとぞくぞく感。しぐれゆくの表記により余韻残りました。


よく笑ふひとや春田をたもとほり  藤井万里

笑う、より笑ふの方が、ふふふと続く笑いを想像します。「たもとほる」は行ったり来たりするの古語。ひとや、で切れていることから、笑顔たやさぬ人が、春を迎える田んぼを行ったり来たりしている。植物の成長を待っているのでしょうか。そわそわした期待感を孕んだ、春の温かな景が浮かんできました。


山口遼也 叡電 10句 ≫読む 第821号 2023年1月15日
山岸由佳 おのづと 10句 ≫読む 第825号 2023年2月12日
佐々木紺 声と暴力 10句 ≫読む 第826号 2023年2月19日
藤井万里 青 空 10句 ≫読む 第827号 2023年2月26日

0 comments: