2024-05-26

小林かんな【週俳4月の俳句を読む】粗くて固い

【週俳4月の俳句を読む】
粗くて固い

小林かんな


歩みまだ殻の内なるがうなかな  千鳥由貴

ヤドカリについてあまり知らないので、ネットで調べた。
卵から生まれたばかりのヤドカリは、親とはまったく異なった形をしており、ミジンコのように水中を漂っています。これを「ゾエア幼生」とよびます。ゾエア幼生は、数回脱皮するとやや親に近い形となり、海底付近で暮らすようになります。…そしてさらに脱皮をして小さなヤドカリ(稚ヤドカリ)になります。稚ヤドカリでは腹部の節が目立たなくなり、このころから貝殻をせおうようになります。/親と同じ形になり、貝殻をせおうようになってもヤドカリは脱皮をしながら成長を続けます。そして、大きくなった体にあうサイズの貝殻を探し、引っ越ししていきます。(千葉県立博物館「海の博物館」サイトより
歩き始めたヤドカリだろう。新しい殻に入ったのかもしれない。殻の内は殻にこもるという表現を連想する。殻の内という歩き方の実態はよくわからないけれど、狭い歩幅、ぎこちない動きを思い浮かべた。「まだ殻の内」という段階を切り取ることで、その前の殻の乗り換えやこの後の定まって軽快な歩みも想像される。

「ヤドカリ」ではなく、「がうな」と詠まれているのは拍数の都合と思われるが、「がうな」という粗くて大きな音始まりの語がこの句に合っていると思う。ヤドカリ自体も動きもごく軽い印象なのに、なぜだかそう思う。


千鳥由貴 船便 10句 読む 第885号

田中木江 さくらえび 10句 読む 第887号
原麻理子 おぼえる 10句 読む

うっかり たんぽぽ 10句 読む 第888号

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