【週俳10月11月の俳句を読む】
ほんの小さな光
小林すみれ
ゆきやなぎからはじまつてゐるこども 垂水文弥
一七音の柔らかな響き。
すべて平仮名なのが、新章の春を感じさせる。
小さな小さな白い花がこどもと響き合う。
つい触れてみたくなる光のような新鮮な一句だ。
踊りけりあなたの彗星となつて 垂水文弥
これは恋シャワーの中のまるごとが 同
抱きしめに来いよ水仙のくせしてなんだよ 同
いずれも若々しさが迫ってくる三句。
情熱、喜び、焦燥、渇望などが垣間見える。
恋をすると世界が変わる。
バイアスがかかり、その人だけがすべてとなる。
例えば、誰が見ても完璧に思える人がいるとする、でも万人がその人を好きになるとは限らない。そこが不思議。惹かれ合うとはどんなメカニズムなのだろう。
作者のほとばしる熱情、直截的な言葉がいっそ清々しい。
玻璃窓に我その奥の窓にも我 関灯之介
停電の夜の鏡へ顔を寄す 同
冬薔薇鏡の中の遠き部屋 同
この三句は、鏡、窓という言葉を使って自分の内奥を投影させているのだろう。
一句目、自分を冷徹に見つめ少し醒めた眼差しの作者が見える。
二句目、突然の出来事でも落ち着いた心を持ち、ひとまずは鏡の冷たさに頬を寄せる。決して暗闇を恐れてはいない。その泰然とした所作に惹かれる。
三句目は愁いの奥行きのようなものと同時に、孤独を受け止めている冷静な心持が冬薔薇の冷たさに共鳴していると思う。
髪コップの紙の香強き秋燕 三宅桃子
飛び切りの残暑も終わりが見え、朝夕の空気も徐々に変化する。
帰燕のころ嗅覚も研ぎ澄まされてゆく。季節の小さな動きを香りで感じ取った繊細な一句。
父斜めに写りて犬の墓を指す 三宅桃子
家族に愛された犬。名前も皆でつけたのかもしれない。
この犬も一緒に写してくれと墓を指されたのだろう。
たぶん亡くなってからそんなに時間がたっていないのか、
とっさの動作に家族にとっての犬の存在の大きさを知る。
三角に響いておりしふゆの星 三宅桃子
冬は大気も澄んで、都会でも目を凝らせばたくさんの星を見ることができる。
ペテルギウス、シリウス、プロキオンは冬の大三角だ。
中でもおおいぬ座のシリウス、オレンジに光るオリオン座のペテルギウスは見つけやすい。目が慣れると、小さな光の三つ星も見えて来る。
星々が調べのように身の内に響いてくる。寒さも忘れる尊い一瞬だ。
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