【週俳10月11月の俳句を読む】
Difficult
浅川芳直
difficult な句群に畏怖しつつ読んだ。むろん”difficult”は「手ごわい」の意。本当に良い句はどこか分からなさを含むように思う。以下に引いたのは、構成のあとが見えるというより、どこかシンとしたものを感じる作品。
春も人参ホラー映画で盛り上がる 垂水文弥
人参は冬の季題ということになっている。それで「春も人参」なのだと思うが、実際には通年栽培されていて、正直なところ季節感は薄い。歳時記への違和感を逆手に取った上五の打ち出しの勢いもさることながら、中七以後への展開に引き込まれる。ホラー映画も多くの理不尽に塗れたジャンルだ。ゾンビが暴れる町で、軽装の女性がなぜか最後まで生き残るのはお約束。「盛り上がる」ということは、本来制作側が意図したはずの「恐怖の演出」を「期待感」に読み替える、いわば作品を遊びものにする態度。今は配給側ですらこのような鑑賞を推奨しつつあるが、なんとも不思議な現象である。理不尽と理不尽、奇妙と奇妙が結びつき、一種異様な言葉の高揚感を生んだ。
木仏の手粗々と夜を束ねたる 関灯之介
迷わずこの句を抜いて、鑑賞しようという段になって季題がないことに気づいた。まず「粗々と夜を束ねたる」に目が止まり、続いて「木仏の手」に目が止まった。やわらかなプロポーションの仏像の手でありながら、その像を彫った節くれだった人の手も連想させる荒々しい彫跡も刻まれているのではないか。厳しさとやさしさとを同時に含む仏像の指先が、闇の中に浮かぶ。春の句の中に紛れているだけの春の季感を覚えつつ読んだが、たまたま春の句であったとしても季題がないことによって四季にわたって通ずる句となっていると思った。
どんぐりの小さくなって石の墓 三宅桃子
石でできた墓というのなら当たり前なので、石を祀った場所をこう言っているのかもしれない。いずれにせよ立派な墓石か、巨石の前で、どんぐりが縮こまっているように見えるという見方が面白いと思った。ほのぼのとした味わいがあるのは、どんぐりという素材の良さが要因として大きいかもしれない。小さくなっているどんぐりの前で、無防備な人間は墓に吸い込まれそうな感じさえしてくる。不思議な読後感を覚えた。
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