2025-02-02

叶裕【週俳10月11月の俳句を読む】Parfait 三宅桃子「溶けたあと」を読む

【週俳10月11月の俳句を読む】
Parfait
三宅桃子溶けたあと」を読む

叶裕


つくつくし紙人形の溶けたあと  三宅桃子(以下同)

紙コップの紙の香強き秋燕

父斜めに写りて犬の墓を指す

くつしたの裏を表にする花野

息白く糸を漏らさず立っており

おそらく作者は日頃からカメラを持ち歩いているのではないか?そんな感触のある句が並ぶ事から一句一句を取り上げるのではなく、ベタ焼きを眺めるように連作全体を眺め、この文を書いている。

いま流行りの淡い色調にふわりとした輪郭、明るいレンズのもたらすボケ感の美しい写真を思わせるスタイルに見えるが、すこし距離をとって眺めているとその奥から悲や哀の涙の味がして来る。

そんな作者の句に日常を切り取ることで生の脆さと厳然とそこに横たわる死を写す写真家、川内倫子の写真が重なる。これは中々の曲者だぞと、写真家でもあるぼくは気を引き締めて拝読した。

よく読めば、師系や伝統などといういかめしさを感じさせず、しかししっかりと基本を踏まえた句風はすれっからしの目にも優しく映る。しかし噛み締める内に甘かったり、酸っぱかったりしてまるで一度に様々な味を楽しめるパフェのようにも感じる。そう、作者はただ読まれるだけでなく、一つの作品として観られる事を意識しながら慎重に材料を選び、調合し、シンプルながら美しい器に盛っているのだ。

優しく美しい。そして美味しい。もうそれだけで読者は嬉しくなる。そんな三宅氏の連作を堪能出来た事を嬉しく思う。

ごちそうさまでした。ありがとう。


垂水文弥 両の壁と五十の塔、そしてそのかなしき王たち 52 読む 912

関灯之介 橋 30 読む 914

三宅桃子 溶けたあと 10 読む 915

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