2026-01-18

【小笠原鳥類×中嶋憲武の音楽千夜一夜】ボン・イヴェール「Everything Is Peaceful Love」

【小笠原鳥類×中嶋憲武の音楽千夜一夜】
ボン・イヴェール「Everything Is Peaceful Love」


憲武●今回は小笠原鳥類さんをゲストにお迎えしました。しばらくぶりのご登場です。

鳥類●ありがとうございます。小笠原です。いろいろなロックを聴くのですが、週刊俳句の対談では、今まで2回、元気ではない、いいロックの話でした。ヴィレジャーズ【リンク】B.C.キャンプライト【リンク】。そして今日も、元気に盛り上がるのではないですけど、いいロック。アメリカのバンド、ボン・イヴェールの、2025年のアルバム『Sable, Fable』から「Everything Is Peaceful Love」を。


鳥類●ボン・イヴェールは日本語ウィキペディアもあって、「インディー・フォーク・バンド」と言われています。「インディー」は〈売れなくていい〉という意味なのかな、詩を書いていると共感できるかもしれません。

憲武●いいですね。その解釈。独立するってことは、売れなくていいっていうことなんですね。

鳥類●1人で詩を書いて、こんなもの誰も読まないかな、本を出すことを出版社に断られることもあり、でも書かないと納得できない。そして「フォーク」。フォーク・ロックであると言われるバーズの、最初のアルバム『ミスター・タンブリン・マン』が、クラシックの合唱のように静かなのでした。書きながら、小さい音量で聴いているからでもありますが。

憲武●「ミスター・タンブリン・マン」のバーズのバージョンは確かにいいです。優しくせつない。

鳥類●ボブ・ディランの曲ですけれども、まったく違う音楽にしているのです。声が、違うところから響いてきて、せつない気持ちです。で、今の、せつないロックの、ボン・イヴェールは来日公演もあったそうですが、私はライヴに行っていません。そこでは盛り上がっているのかな。私はビートルズの、特に後半、青盤の頃が好きで、ライヴをやめて、スタジオで長時間、閉じて音楽を作り続けているのが、私には、いいのです。ホワイト・アルバムが、いつまでも新しい。詩を書きながら聴いていると、今、もしかしたら隣の部屋にビートルズがいるような。で、その後の音楽にも、静かな室内楽の近さを求めます。ブラームスが好きなんです。

憲武●音楽界の三大Bは、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスですね。四大Bとなると、そこにビートルズが加わると、映画「レット・イット・ビー」の日本語版ナレーションで、かまやつひろしが言ってました。

鳥類●ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンも、いまは……。ブライアンのアルバムでは『イマジネーション』を。思い出の話をすると、30年以上前、私は高校の頃に萩原朔太郎や西脇順三郎、山村暮鳥、宮沢賢治、三好達治、立原道造、北川冬彦、萩原恭次郎たちの詩を読みはじめました。先生や親や、他の学生たちから〈読みなさい〉〈詩がいいぞ〉と言われたのではなくて、私1人だけでした。学校の図書室の暗い棚で、誰も読まない詩の全集の本が、怖かったのです。怖いから1人で読む。野村喜和夫さんの最近の2冊『萩原VS西脇』『地面の底のわれわれの顔』は思潮社で、表紙が暗くて怖くて、今、名前を言った詩人たちの数人も出てきて、なつかしくて泣けます。1990年代には〈詩が読まれない〉と言われて、今は、どうなのかな、しかし、他の人が読まないものを読むのが、危なくて、いい。と言っていると、意外に読者がいたりもしますが。

憲武●怖かったんですね。僕も高校の頃、図書室にあった萩原朔太郎などの詩集を読みましたが、やはり暗い角の一隅にありました。追いやられてる感があって、可哀想で読みました。現在の高校生はどうなんでしょうね。

鳥類●今でも、数十年前の古本で、高校の時に見ていた詩のシリーズを少しずつ。古い活字で古い紙で、箱も表紙も暗くて、怖い。筑摩書房の文学全集で「現代文学大系」などに詩の巻があって、中央公論社「日本の詩歌」は淡い紫の表紙で(中公文庫にも)、そして新潮社「日本詩人全集」、彌生書房「世界の詩」などもありました。それから創元社(東京創元社)の「全詩集大成 現代日本詩人全集」が、高校の図書室に並んでいて、ほんとうに怖かった。装幀が恩地孝四郎なのです(朔太郎『月に吠える』装幀の人)。箱から出した表紙が暗い青で……。幽霊を見ないですけれども、昔の詩の本があれば、怖い部屋です。で、学校の図書室に、俳句であれば〈マンガで入門〉のような、明るい本もあったのでしたが。

憲武●恩地孝四郎は怖いです。どうしてでしょうね、詩というと版画でいえばメゾチントが似合いそうな気がするのは。

鳥類●長谷川潔の版画が好きで、長年、フランスにいた人ですので銅版のメゾチントをフランス語でマニエール・ノワールと言っていたのでした。

憲武●僕も長谷川潔好きです。メゾチントの作品「本の上の小鳥」や「ジロスコープのある静物画」などもいいんですが、エッチングの作品「コップに挿した枯れた野花」などもいいんです。緻密な表現に惹かれます。

鳥類●私は京都で見たのですけど、長谷川潔の版画は黒(ノワール)が、どこまでも奥に行けるようで怖いです。日夏耿之介や堀口大學の詩集には、長谷川潔は木版だったのですが、ここにも鮮やかな闇がある。ここで思い出せる音楽であるボン・イヴェールも、おだやかに奥深く怖いところもある。たくさんの音楽を詳しく研究して、静かな場所で寂しく音楽を作り続けているように聴こえる。現実は違うかもしれませんが。1人で詩を読んで、1人で詩を書く、という、ちょっと危ない孤独に、響いてくる音楽です。こまどり姉妹「幸せになりたい」も。

(最終回まで、あと579夜)

0 comments: