2022-02-06

【週俳11月・12月・1月の俳句を読む】もしも俳句にしなければ 小久保佳世子

【週俳11月・12月・1月の俳句を読む】
もしも俳句にしなければ

小久保佳世子


岡田由季「宴」10句。もしも俳句にしなければ通り過ぎてしまう身の回りが描かれていて心惹かれる作品「宴」でした。「宴」の良さによって俳句の良さを改めて思い知った感があります。


冬の月旅に少しの化粧品   岡田由季

荷造りをする旅前夜。もし素に帰ってゆくのが旅だとしたら化粧品はいらない。それでも少しだけ旅荷のなかに忍ばせる。そんな微妙な心理と行為のリアル。


階段の巻き付くホテル冬の虫  同

螺旋の外階段は、まるで生き物のようで階段に巻き付かれてホテルはやがて滅びてしまいそう。冬の虫のあるかないかの声がそれを象徴しています。


茶の咲いて文学館の混む日なし  同

地元の文学館へ足を運ぶのは、イベントなどがある日なのでそれなりに人が集まっている印象があります。掲句からは具体的な人数というより「文学」というものが敬遠される風潮を感じます。


何種もの鴨の混ざりて宴めく  同

鳥に詳しい作者だから、鴨の種類識別もたやすい事だと思います。そんな作者にも何種類もの鴨が集う風景は珍しく、まさに宴の喜びに満ち溢れてみえたのでしょう。


枯蓮植物園を出てからも  同

植物園という囲いはあるものの、あまり整ったものではなくそこを出ても同じような枯蓮。色の無い枯れ世界の無常観があります。


雪もよひ公民館に湯を沸かす  同

公民館の懐かしさ。湯のぬくもり。忘れてしまいがちな大切な空間がここには描かれています。


タイ米のみな立ち上がり冬日和  同

タイという異国に育った米は、冬のよき日にこの国で炊かれ元気に立ち上がっています。ガンバレ!タイ米よ。


冬の山良書並べしやうにあり  同

なんともユニークな発想でありながら納得です。日本の山々は、言われてみれば正しい良き思想を孕んでいるようであります。


極月の鳶のことさらきれいな輪  同

「きれいな」はちょっと安易な言葉。でもこの句が安っぽくならないのは極月という強い厳しい言葉からでしょうか。


夜の端海鼠の口がすこし吸ふ  同

夜に端なんてあるかしら。そもそも海鼠の姿かたちには得体のしれなさがあるので、黒黒とした夜の端とやらをチューっと吸っているという虚もありのような。


第761号 2021年11月21日 花島照子 フェルマータ 10句 ≫読む

第764号 2021年12月12日 田邉大学 優しい人 10句  ≫読む 

第765号 2021年12月19日 岡田由季 宴 10句 ≫読む

第769号 2022年1月16日 佐藤智子 背はピンク 10句 ≫読む 

第770号 2022年1月23日 大室ゆらぎ 霜 10句 ≫読む 

第771号 2022年1月30日 野崎海芋 三連符 10句 ≫読む 

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