2013落選展を読む(3)
書いたことは、すべて自分に
対中いずみ
■9 高梨 章「病室」
きらきらと肺侵されてすみれ草 高梨 章
輪になつて明かりをつける枯野かな 同
全集にふたつ欠けあり雪にかはる 同
作者ご自身か、もしくは身近に病む人がおられるのだろうか。「病室」とタイトルを付された一句目など、俳句としては甘いと思われるが妙に心に残る。ある寂しい虚ろなトーンは一定している。長年、詩か短歌を書いていた人が俳句を始められたような、そんな作品群だ。
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■10 津野利行「餃子」
ストーブの火を消すボタン押すだけの 津野利行
脱力系の内容と詠みぶり。50句のなかに<カラオケの隅マフラーをしたままの>があるのは残念。こういう変則的な叙法は、一句あれば良く、二句あれば緩んでしまう。
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■11 ハードエッジ「ならば踏めよと」
親指と人差し指とアイスの棒 ハードエッジ
意味なく、即物的な句。<もの腐る季節となつて蠅も出て><赤ゆゑの寂しさに群れ赤とんぼ>などの意味性や見立ての句よりは、掲句を採りたい。<すやすやと赤子の眠る遠花火>の「すやすやと」、<柿干すや目鼻かそけき赤ん坊>の「目鼻かそけき」などの常套語は排して、その後に出てくるナマな、新鮮な言葉をこそ読みたい。
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■12 堀下 翔「生年月日」
蟻穴を出て乾きたるところへと 堀下 翔
夏場所が終はるころ家建つらしい 同
2012年俳句甲子園出場というキャリアから見ると、早熟な才だと思う。季語がまだしっかり肉体化されていないようではあるけれども、季語そのものに食らいついていこうとする姿勢が見られる。吟行に出て現場で季語そのものを詠んでいく訓練をされると伸びる人だろう。
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■13 前北かおる「置炬燵」
ふぐちりのふぐのラップを外しゆく 前北かおる
この句、面白い。
襟巻にノートを当てて諳んずる 同
も可憐。
<冬至柚子もらふ到着ロビーかな><吹抜に吊すあれこれクリスマス>もいいと思った。さすがに50句となると、息切れしている句もあるけれど、平均打率は高い。「ふぐちり」の句のようなホームランもあるので、今後が楽しみだ。
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■14 山下つばさ「祝福」
菜の花や涙こぼさぬやうわらふ 山下つばさ
冬の蝶鉄の扉を這うやうに 同
一句目は、巻頭の句。何か幸福なものを予感させる出だしである。二句目は、集中、最も惹かれた句。鉄の扉を引っ掻く冬の蝶の脚が金属音をたてていそうだ。<深々とお辞儀の奥のチューリップ><冬の駅犬突然に走り出す>も面白い。チューリップも犬も日常生活に当たり前に登場するモノたちだけれど、切り取り方の角度だろうか、どこかユーモラスだ。
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■15 山田露結「幸せの人」
蛇穴に入る眠る子の息荒く 山田露結
かろうじてこの一句をいただく。目にしたものをどんどん五・七・五に変換する能力に長けた方だと思う。しかし、作者は、『再読 波多野爽波』(邑書林)の執筆陣の一人だが、爽波の「多作多捨」はこういう句を量産せよということではなかったのではないか。爽波は多作多捨の果てに得られる、手応えのある一句を求めた。それは先ず作者自身がオドロクような一句であったはずだ。また、「季語がつきすぎであることほど味気ないものはない」とも言っていた。俳句は、発見、飛躍、言葉の鮮度を欲する詩だと思う。
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■16 吉井 潤「光○追う人」
初明かり磁器を透かせばミルク色 吉井 潤
一人で作っておられるのかもしれない。良き仲間、指導者に出会ってほしい。
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■17 すずきみのる「過日」
草むらに吹き戻されて蛇の衣 すずきみのる
秋灯下子規の千枚通し見る 同
かっちりした俳句作品を作れる方だが、それだけで終わりたくはないようで、一部、<コンタクトレンズが痛いいぬふぐり>といった稔典さんばりの作品や、<ひたひたの水にいきていたくないなまこ>などの実験作もある。多彩とも言えるが、50句一編を通して読むと、ばらばらな感じは拭えない。俳句観の確立が待たれる。
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以上、言い過ぎたり、言い足りなかったり、力不足だったろうが、何か少しでも作者に届けば幸いだ。書いたことはすべて自分にはね返ってくる。私も、実作に戻って精進を重ねたい。
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2013-11-24
2013落選展を読む(3) 書いたことは、すべて自分に 対中いずみ
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