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2016-11-13

2016「角川俳句賞」落選展(第5室) 18.堀下 翔 19.前北かおる  20.宮城正勝  21.吉井 潤  22.Y音絵 23.北川美美

2016「角川俳句賞」落選展■第5室


18.堀下 翔 




19.前北かおる


  

20.宮城正勝 




21.吉井 潤 




22.Y音絵




23.北川美美
(2016/11/24 01:30追加)
18. 波の飛ぶ 堀下 翔

春の雲花入れし炉のつめたさに
宿出でて春の入江の横しぐれ
玄関に電話老いたり紫木蓮
大き花涅槃の海へ流れけり
浦みちに旅長じをる雪解かな
あかるみに椿の浮かぶ盥あり
夕東風や壺中に湧ける鯉の息
浜へ出て春の墓参の暑さかな
こぼれたる杏の花に影つのる
鱒二匹入れきしきしと魚籠鳴れり
花つけて樫の木の暮れ残らざる
本堂の闇漏れいづる桃の花
藤の花ひとすぢに吹き上げられし
葉まじりの桜へ波の飛びにけり
鮎季の峠に雲の浮き古りぬ
流さるる牡丹を音と聞きしのみ
桜木にうち捨ててある蛇の衣
冷えながら届く日差やあやめぐさ
蟻の穴川瀬に細りゐたりけり
夏菊をはなれぬ影が花桶に
涼しさや聞けば疎としてお念仏
橋かけて川のしたしさ夏の雨
蜘蛛の糸一本や灰びつしりと
あをあをと梯子透けたる竹簾
水遊するとき呼んで呉れしかな
夏桔梗兆すなりける水の音
平日は本を開かず白木槿
牽牛花開けば白きばかりなる
声しげく露の御寺をあゆみきし
萩焼けばあらはに炎かをりゐる
しじまなる糸瓜の水を取りにけり
日晒しにほとけを運ぶ通草かな
樅の木や月のまはりに夜の痩せて
水甕に喉元うつる榠樝の実
川すぢに吉備訪ひて秋みじかしよ
水くらくあをぞらうつす松ぼくり
この雲を峰とおもひし柿もみぢ
みづぐるま八手の花を流したる
楚々として日輪没す枯葎
はつ冬やいづみに出づる楓の根
くづれたる波より蜜柑あらはれし
山茶花に手をたまひあふ日暮かな
見えてゐるものの暗みに実千両
寒雁のうち出でたるは音たてて
茶の花へまなざし遠くしてをらる
雨がちにゆふべの来る蕪汁
手にしたる笹より雪の落ちにけり
ひとむらの山藤の葉の氷りゐぬ
雪うすく載せおしうつる瀬なりけり
来る舟に夜の先んずる霰かな



19 .応援歌 前北かおる

応援歌いまフィールドに水撒かれ
見せつけよ我らの起こす青嵐
円陣の笑ひ崩るる若葉かな
ゴールまで飛魚逃がすやうにして
サングラス小さくガッツポーズかな
新緑や短く鳴らすホイッスル
姫女菀試合に負けて帰るなり
えごの花テニス横目に入りつつ
昼顔や女連れなる草野球
刈り払ひ野にひと本のあやめ草
主なくて死ぬるものあり蜘蛛の網
葭切やベンチのやうな橋ありて
橋涼み産卵のさまつぶさに見
凪解けの風音澄むや青芒
篁に表門あり花紫蘭
夕涼や子を抱く同士庭先に
塀に抜く四ツ割菱や今年竹
茶畑や八高線の夕焼けて
踏切の真中西日を振り仰ぐ
夕陰に虞美人草の白さがす
月見草車道のほかは舗装せず
日輪のマーガレットに没さむと
身の内に試合の余韻髪洗ふ
青蔦や一階深く窪みをり
雲の峰乗り上げて家こぼつなる
豌豆を引くや園長園児どち
針金に丸太ン棒やポピー咲く
ガム嚙んでマーガレットの花に佇つ
じやがいもの花新築の壁汚し
柿若葉鞣したてなる艶をもて
みどり子を片手に抱へ夏来る
甲冑を鎧うて鴉若楓
軽暖のたつたか跳ぬるピアノかな
牡丹や一間づつの庭の畝
忍冬新道通さする気なく
冷やしうどん土間に履きもの散らかして
若楓石垣めかす護岸かな
万緑や丸裸なる鉄の橋
蘆原に固太りなる夏柳
黄菖蒲や干上がりて泥新しき
毛虫這ふむんごむんごと尺取りて
緑陰に絵本の家や扉をひらき
花浅沙水に倒るるまで吹かれ
ほたほたとものの絮浮く目高かな
店閉めて薔薇にかしづき奉る
裏庭の薔薇の溢るる小川かな
日焼して小さきピアス光らせて
タクシーもバスも大人し夏木立
田植どき水の緑の深まれば
乗り継ぎて茅花流しの野をさらに



20. 西日のできごと 宮城正勝

慶良間沖のたうつ孤独はたた神
漬茄子や今は昔の今朝のこと
夏燕やせ細りたる川しか知らず
押し黙り麦茶置く妻舌禍以後
梅雨寒や後期高齢という異界
終わりあるは慰め蝸牛も人間も
西日浴ぶ千年一日のとある日
息するも貧乏ゆすりも五月闇
見分けしは誰ならん茸と毒茸
県道の落石注意椎の花
砂利の道ここらで夕焼と別れんか
かぐや姫眠る夕焼けの乳母車
街中の陰を浚いて日の盛り
聖書はも文語がよろし籐寝椅子
緑陰に余生という語嘘くさし
蟷螂がどうしてここに夜のキッチン
いのち果て夏大根のごとくかな
人逝きて日盛りに靴あふれけり
酒瓶が西日に転がり逝きしとか
水を欲る汗をかかざる老いの腕
片陰を歩いてほととぎす学会へ
海上の道なつかしき浜防風
夕焼けを背の軒遊び亡びけり
鱧食うて後期高齢の志を果たす
梅雨寒や喪服連れ立ち朝の路地
夕焼けは切なし笛吹童子よぎる
手土産にメロンを買うも不戦の志
眼にて追う蟻の生老病死かな
惚けざるも不幸のひとつ百日紅
死はしつこしひとりのときの蜘蛛の糸
老いたれば海月となりぬアーケード
木のベンチに一息つきて夏送る
路地をゆく如才のなき一茶の忌
待たれたるたる死なり供花は夏の花
死者生者分かち麦茶置かれあり
棺はもいつも新し百日紅
夏菊に埋まりし死顔よく生きた
前のめりのひと日夏シャツ半乾き
誰も魚籠を覗くや西日の決まりこと
手酌の夜余震本震蚊を殺す
とある日の無為のただなか土用波
六月や生き残りしは佇めり
蜘蛛の網駐車禁止の更地かな
しじまあり灼くるつとめの石の上
これを食みしは今朝か昨日か干鱈食む
夕焼けや帰りなんいざサラリーマンへ
禁煙のただだだっ広き西日かな
夕焼けや海辺なれども心急き
みな背き冷酒ぬるくなるままに
自然死が近道ならん百日紅



21. 内海 吉井 潤

花時や七宝焼の耳飾り
花の雨大極殿の高御座
仄甘きビオフェルミンや春の水
春一番逆子くるりと宙返り
アルマイト弁当箱や風光る
差入の厚焼き卵弥生尽
裏店に光呼び込む藤の花
薬缶噴き始む草餅有難う
菜の花や末広がりの河川敷
歩毎に芦の角踏む木橋かな
春の海金平糖の波頭
水底は誰もが蒼き桜鯛
初夏の原稿用紙水浅葱
卯の花の中に廃家の柱かな
あぢさゐは水の気配のセルロイド
針箱の中の骨片五月闇
雨蛙背を撫でやれば眼とづ
驟雨来る股上辺りまで濡れぬ
哨舎にも虹の一色雨上がり
腹這ひて端居の人と笑ひけり
昨日よりけふを輪切りに夏来る
じゃんけんで負けて蝉食ふ黒ん坊
噴水は淡海に水を足しにけり
土用波ロールケーキに巻き始
みづうみを挟みて淡し遠花火
地拍子がほころび弛む残暑かな
蜩の崇福廃寺谷の奥
遠近にほこる溝萩隠れ里
方言「はびこる」
磐座を乱打する音野分かな
大花野布施をふるまふ伊吹山
町筋を抜くる秋燕店じまひ
こほろぎや寄木細工のオルゴール
月見亭へと蠟燭の道標
曳山の手拭貰ふ秋祭
白鳳の伽藍失ひ秋麗
騒めきが芦火を待つや闇の中
痩する牛秋耕終り返しけり
冬めくや袷の裾にしつけ糸
内海のどちらも故郷冬麗
密柑山西行庵を腹に乗す
焼き鳥のたれでくつつく丸い椅子
拳骨を突き上げ吼ゆる焚火歌
初飛行訓練場に降り然らぬ
地吹雪に電信柱鳴り止まず
黎明の水道橋や凍つる朝
寒釣の狂喜胸まで漬かりけり
河原の湯裸の横に薄氷
下萌や地下より響くサキソフォン
春寒し人事ひとごとなどと言ふ
逢坂や堰堤の花見ざるまま



22. 渦巻 Y音絵

空洞のやうな朝なり揚雲雀
松の幹を蹴つて雀や春嵐
吐きさうな朝を囀るばかりなる
糊白く厚く乾びぬ春休
しやぼん玉高速道路見えてをり
霾や働いてゐる救急車
花時の両目を入れて顕微鏡
ピンセット沈め消毒液朧
カーテンを見る酢もづくに箸つけて
朝寝ほどほどに躑躅を見に行く日
動物病院前の柳よ久々に
クレープワゴン 遠くに密に棚の藤
ごみ箱や茫と暮せば夏が来て
鯉幟ちやうどよく日の差し来たる
別々の葉や葉桜は葉を増して
明易の肘のひりひりしてゐたる
手鏡に前歯映りぬ麦の秋
梅雨晴や鋏開くに要る力
虹の近くに阿佐ヶ谷といふ駅が
ともだちのへんなをどりや夏薊
ぬばたまのジュース注ぎけり網戸して
テレビつけつぱなし真夏の動く月
噴水の止んでゐる間の嗅覚よ
薄く盛り上がる背中が空蝉に
したくちびるや夏の終りの貯水池の
親友はどの蜩を聞いてゐる
朝顔も褪せ初めにけり撮影す
かはいくてかたい箸置オクラの旬
サルビアもこどものこゑも疲れたる
稲妻や廊下てふ角ばつた管
どの色のグミも硬くて雨月なり
ふらふらする秋分の日の自室かな
虫の夜のアルコール綿汚しけり
涼しさよ海鮮丼の安き日の
花野ありはつきりと傾いてゐる
朝寒やはちみつといふむすびつき
水際に騒いでゐたり紅葉狩
林檎焼く間を鍵盤の浮き沈み
しぐるるや監視カメラを君は指し
雨粒は手袋に落ちバスが来る
牡蠣呑めばその流速を思ひけり
オリオン座歯の裏を言葉がまはる
白息や砂場に豹のゐてほしき
だるさうに君は笑むなり綿虫へ
枯蔦やおそく歩けば靴の照る
渦巻を描けば落ちつく霜夜なり
初夢のこと砂浜にすこし話す
雪の夜の君すこやかに勉強す
探梅の途中眠たき椅子ありぬ
からつぽの漁村のやうに日脚伸ぶ




23. 不在 北川美美

手は水を掬ひにゆきぬ麦の秋
しづかなるじやがいもの花日傾く
カーテンの襞のふくらむ青葉風
香水に紙縒りの先のひらきゆく
白日傘脚美しく迫りくる
開ききる薔薇の花びら崩さうか
欄干がくるぶし高や旱草
十八で離れし家に月夜かな
山の上より遠花火遠花火
子規の忌の紐引いて消す蛍光灯
ゆふべと同じ秋茜かもしれぬ
横たはる抗議の人や天の川
第三京浜より月離れゆく
旅客機の窓ごとに顔秋の暮
すでにある脚立と籠や林檎の木
馬の尾のほど美しき秋の風
寝返りを打つたび月の遠くなり
歯に当つる林檎や北の空低し
揺れ撓る大根の葉が荷台より
凩や狼祀る木の家に
東京に古きホテルや日記果つ
元日の門を開ければ前に犬
土塊は土塊を積み寒鴉
廃屋の氷柱を見せて信濃かな
アイゼンをつけるに作法ありにけり
雪掻きを了へたる軍手なのだらう
セーターを出て人の名を思ひ出す
雪原に人のかたちの窪みあり
鉛筆は兄の匂ひや春遅々と
春の水弾みて玉にならんとす
梅一輪つめたくなりし塩むすび
菜の花の暮れて人来る空地かな
口にせし芽吹くものみな土の味
永き日のコールタールを運びけり
きのふよりふくらむさくら遊ぶ鳥も
走ることすなはち桜吹雪かな
会議室仄暗くして桜見る
夜桜に背中を向けて座る席
花の雨あまたの円を描きけり
五月来て神様を描く七つの子
青杉にわれ隠れてや誰もゐず
茄子の花に黒き管ある夕かな
夜店にて星を忘れてをりにけり
Tシャツのかがめば伸びる背中かな
石段の先に湯殿や夏鶯
かち割りを頭叩いて食べにけり
昨日の蝿が部屋から出てゆかぬ
おのづから閉まる引戸や夏館
ハンカチの正方形となりしとき
夏の月うしろ歩きのさやうなら

2013-11-24

2013落選展を読む(3) 書いたことは、すべて自分に 対中いずみ 

2013落選展を読む(3)
書いたことは、すべて自分に

対中いずみ


9 高梨 章「病室」

きらきらと肺侵されてすみれ草   高梨 章
輪になつて明かりをつける枯野かな 同
全集にふたつ欠けあり雪にかはる  同

作者ご自身か、もしくは身近に病む人がおられるのだろうか。「病室」とタイトルを付された一句目など、俳句としては甘いと思われるが妙に心に残る。ある寂しい虚ろなトーンは一定している。長年、詩か短歌を書いていた人が俳句を始められたような、そんな作品群だ。

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10 津野利行「餃子」

ストーブの火を消すボタン押すだけの 津野利行

脱力系の内容と詠みぶり。50句のなかに<カラオケの隅マフラーをしたままの>があるのは残念。こういう変則的な叙法は、一句あれば良く、二句あれば緩んでしまう。


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11 ハードエッジ「ならば踏めよと」

親指と人差し指とアイスの棒 ハードエッジ

意味なく、即物的な句。<もの腐る季節となつて蠅も出て><赤ゆゑの寂しさに群れ赤とんぼ>などの意味性や見立ての句よりは、掲句を採りたい。<すやすやと赤子の眠る遠花火>の「すやすやと」、<柿干すや目鼻かそけき赤ん坊>の「目鼻かそけき」などの常套語は排して、その後に出てくるナマな、新鮮な言葉をこそ読みたい。

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12 堀下 翔「生年月日」

蟻穴を出て乾きたるところへと  堀下 翔
夏場所が終はるころ家建つらしい 同

2012年俳句甲子園出場というキャリアから見ると、早熟な才だと思う。季語がまだしっかり肉体化されていないようではあるけれども、季語そのものに食らいついていこうとする姿勢が見られる。吟行に出て現場で季語そのものを詠んでいく訓練をされると伸びる人だろう。

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13 前北かおる「置炬燵」

ふぐちりのふぐのラップを外しゆく 前北かおる

この句、面白い。

襟巻にノートを当てて諳んずる 同

も可憐。

冬至柚子もらふ到着ロビーかな><吹抜に吊すあれこれクリスマス>もいいと思った。さすがに50句となると、息切れしている句もあるけれど、平均打率は高い。「ふぐちり」の句のようなホームランもあるので、今後が楽しみだ。

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14 山下つばさ「祝福」

菜の花や涙こぼさぬやうわらふ 山下つばさ
冬の蝶鉄の扉を這うやうに   同

一句目は、巻頭の句。何か幸福なものを予感させる出だしである。二句目は、集中、最も惹かれた句。鉄の扉を引っ掻く冬の蝶の脚が金属音をたてていそうだ。<深々とお辞儀の奥のチューリップ><冬の駅犬突然に走り出す>も面白い。チューリップも犬も日常生活に当たり前に登場するモノたちだけれど、切り取り方の角度だろうか、どこかユーモラスだ。

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15 山田露結「幸せの人」

蛇穴に入る眠る子の息荒く 山田露結

かろうじてこの一句をいただく。目にしたものをどんどん五・七・五に変換する能力に長けた方だと思う。しかし、作者は、『再読 波多野爽波』(邑書林)の執筆陣の一人だが、爽波の「多作多捨」はこういう句を量産せよということではなかったのではないか。爽波は多作多捨の果てに得られる、手応えのある一句を求めた。それは先ず作者自身がオドロクような一句であったはずだ。また、「季語がつきすぎであることほど味気ないものはない」とも言っていた。俳句は、発見、飛躍、言葉の鮮度を欲する詩だと思う。

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16 吉井 潤「光○追う人」

初明かり磁器を透かせばミルク色 吉井 潤
   
一人で作っておられるのかもしれない。良き仲間、指導者に出会ってほしい。

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17 すずきみのる「過日」

草むらに吹き戻されて蛇の衣 すずきみのる
秋灯下子規の千枚通し見る  同

かっちりした俳句作品を作れる方だが、それだけで終わりたくはないようで、一部、<コンタクトレンズが痛いいぬふぐり>といった稔典さんばりの作品や、<ひたひたの水にいきていたくないなまこ>などの実験作もある。多彩とも言えるが、50句一編を通して読むと、ばらばらな感じは拭えない。俳句観の確立が待たれる。

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以上、言い過ぎたり、言い足りなかったり、力不足だったろうが、何か少しでも作者に届けば幸いだ。書いたことはすべて自分にはね返ってくる。私も、実作に戻って精進を重ねたい。



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2013落選展を読む(3) 目に映るすべてのことは 三島ゆかり

2013落選展を読む(3)
目に映るすべてのことは

三島ゆかり


9 高梨 章「病室」

「病室」というタイトルからすると病中吟なのかも知れないが、ばらばらに季節が立ちあらわれ、どこか人外魔境をさまよう体でもある。挙句の「宇宙船」が全体をぶちこわしにしているような気もするが、それも含めて作者の持ち味なのだろう。

つぎつぎに翼を折りて山眠る  高梨 章

「山眠る」の前で切れる読みも可能だが、冬の連山を鳥に見立てたものと読みたい。季語「山眠る」に本来時間の推移はないはずだが、、「つぎつぎに翼を折りて」からは、日が傾くにつれ刻々と山の表情が変わって行くさまが感じられる。

人ならば先に行かせて秋の暮 同

ふつうの生活人を「どうぞ先に行ってくれ」とばかりにやり過ごし、秋の暮と同一化するのだろう。そこには人でないものとの交感もあるのだろう。

百合咲いて這ふものたちの夜となる 同

「這ふもの」が何かは特定していない。百合の香に呼び覚まされた魑魅魍魎の類であろう。

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10 津野利行「餃子」

餃子にフォーカスを当てるなら、ハンバーガーだのアイスクリームだの水羊羹だの白玉だの出さない方が作品としてはまとまるような気がするが、あえてそうしないのは、その程度の食物だけど…という愛着の証しなのかも知れない。
作業着のままに地べたの花見酒〉〈手袋のままに手術を待ちにけり〉に見られる「に」の使い方が独特である。

子離れは先送りして花は葉に 津野利行

面白い取り合わせである。時が移ろい花は葉になるというのに、私はまだ子という花に夢中である、ということなのだろう。「先送り」というぜんぜん詩的でない措辞がじつに効いている。

足袋底の松に跨る松手入 同 

まず足袋底が目に入ったのだろう。「松に跨る松手入」のリズムがたいへん心地よく、ユーモラスな光景である。

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11 ハードエッジ「ならば踏めよと」

身も蓋もない諧謔に持ち味があるようである。

灯台に蛾が張り付いてゐたりけり ハードエッジ

ぼてぼてに塗り重ねられた灯台の白い肌に(たぶん)死んだ蛾が張り付いている。それだけの景だが、「ゐたりけり」という一見冗長な措辞によって他のいっさいを消し去っているため、強い印象がある。

数へるにしても短日ばかりなり 同

「数へ日」と「短日」を一緒くたにして詠んでみせた諧謔がじつに可笑しい。まこと師走はせわしない。

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12 堀下 翔「生年月日」

対象そのものではなく、名鑑、サイン帳、地図、自叙伝、映画などワンクッション置いたアイテムを巧みに並べることによって、じつに不思議な作品空間となっている。

エイプリルフールの棚に本を足す 堀下 翔

ユーミンの歌の歌詞に「目に映るすべてのことはメッセージ」というのがあったが、この句群を読んでいると「目に映るすべてのことはまがいもの」という気がしてくる。本句は何かしら種明かしのように存在する。

音のない泉であつち向いてほい 同

今という一瞬は「音のない泉」のようにこんこんと嘘のように湧いており、人は無心に「あつち向いてほい」のようなことに興じている。なんだかとんでもなく深くてクールだ。

秋雨の天涯万里髪を切る 同

「秋雨の天涯万里」という果てしなく閉塞的なイメージが下五「髪を切る」でまさに裁ち切られる快感。ここでも「目に映るすべてのことはまがいもの」なのだ。

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13 前北かおる「置炬燵」

オーソドックスで端正な写生句だが、50句中11句も「かな」があるのはいかがなものか。

時雨たる町のプラネタリウムかな 前北かおる

「時雨たる町の」までのひなびた旅情が「プラネタリウムかな」で一気に転じる、と最初読んだが、いささか余談めくと、かの悪名高い「ふるさと創生」により全国に三百以上のプラネタリウムがあるらしい。だとすれば、そこまでがひなびた旅情で、なにも転じていないのか。

冬帝を讃へ発電風車群 同

「冬帝」という季語自体が擬人法なのだが、それを主語とするのではなく讃える対象とし、主語と読めるように「発電風車群」を置いている。「発電風車群」に意思を与え冬帝と対峙させたところがよい。

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14 山下つばさ「祝福」

17音着地の5+6+6とか6+5+6とかのリズムを多用しているが、効果が感じられず読みにくいだけに終わっているような気がする。

心臓の高さに金魚棲まはせて 山下つばさ

「心臓の高さ」という突飛な措辞が卓抜である。金魚の赤さえ深い意味を持っているように思えてくる。さらにこの句を何度も反芻していると、「棲まはせて」はもしかすると眼前の水槽ではなく、自分の体内なのではないかという気さえしてくる。

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15 山田露結「幸せの人」

いちいち小技が上手い分、「これが俺の俳句だ」というのが目立たなくなり損をしているような気がする。

畳まれて四角き顔の鯉のぼり 山田露結

いかにも俳句的なトリックであり、こういうのが憎らしい小技なのである。

包帯を解かれし腕や更衣 同

「包帯を解かれし腕」に「更衣」を斡旋するというのも、憎らしい小技の類だろうか。

樹の瘤は樹の顔ならず冬に入る 同

樹の瘤に人の顔を見る俳句はいくらでもありそうだが、「樹の顔ならず」と云った俳句はあまりないのではないか。

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16 吉井 潤「光○追う人」

ほとんどの句が切れのない作りになっているので、奇をてらわない反面、自らハードルを上げてしまった感もある。

がらくたに春の怒濤を見つけたり 吉井 潤

作者をして「春の怒濤」と言わしめたがらくたを見てみたい。

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17 すずきみのる「過日」

「湖水」「京都駅」「水都」「四条」などを散りばめて、それとなくゾーンをほのめかしてまとめている。「変わり」「わらわ顔」など仮名遣いの誤りが惜しい。

春灯の範疇トイレ使用燈 すずきみのる
喫茶店などにある、トランプのキングやクイーンみたいなのが灯るあれを、「春灯の範疇」を云っておどけてみせている。

四条まで時雨の舌は届かざる 同

「時雨の舌」という措辞それだけでもよいのだが、「四条」「時雨」「舌」と頭韻を揃えたことにより、「時雨の舌」になんとも湿潤なエロスのようなものを感じる。地名のゆかしさもよい。

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2013-11-03

2013落選展 16 光○追う人 吉井 潤

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週刊俳句 第341号 2013-11-03
2013落選展 16光○追う人 吉井 潤
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2013落選展テキスト 16光○追う人 吉井 潤

16 光○追う人 吉井 潤

初明かり磁器を透かせばミルク色
囀りの影横切って水浅葱
掬いたき留めてみたき春の星
春光も混ぜてカオリン乳鉢に
時報音現に戻す春の朝
風光る信号変わるたまゆらに
春の虹色探しつつ加速する
昼休み春色愛でし一人飯
窓枠で菜の花色は額の中
春夕日振り撒く破片踏みそうに
石ころや春光浴びて目を射抜く
駆け寄って拾い上げたる春の月
光る風創れるならば明日死すも
持ち帰る春の光は石くれに
春光の記憶綻び朽ち果てる
春ともし夢中で向かう轆轤台
息詰めて印刀の角冴返る
追いかけし形再び朧なり
手が止まる刻々と過ぐ短夜に
内と外その境目にシャボン玉     
春めきてクラフトフェアーいよいよと
春の服ブローチ選ぶ若夫婦
テント村客足鈍る花曇り
春時雨駆け込む客が二つ買い
白木蓮降るやパラフィン包みにも
永き日やカロリーメイト昼食に 
交流会菜飯白飯おにぎりで
作り手の苦労話や春の宵
花冷ゆる作家と呼ばれ赤面し
新しき自分が見たし椎若葉
作品か商品か否深き春
山笑うまずは自分が好きなこと
がらくたに春の怒濤を見つけたり
好きなモノぽかんとふわり春の雲
ギリギリで人が気づかぬ春星も
春塵を被る軽トラ帰り道
春の闇ヘッドライトを包み込む
ゆく春の砂混じりなるシャツの袖
寝静まる屋根黒々と夏近き
荷ほどきをしつつ落ちたり春の夢
時報音夏めく朝に結びつけ
水飯や父母は寡黙に掻き込みぬ
庭花火好きに生きたし好きに消え
トンボ玉覗けば朱夏のただ中か
油照り三原色は真白なり
淡きモノ見つけ出さんと氷水
夏の日や光あふれて我を食う
虫送り蠢く我ものせてくれ 
秋風にしらじら冷えし白磁壺
狂うなら光少ない冬日かな